フェラーリ Luce(ルーチェ)— LoveFrom

Share

フェラーリ Luce(ルーチェ)フロントスリークォーター(Ferrari × LoveFrom/公式サイトより)

( Ferrari Luce )

跳ね馬の伝統が、はじめて電気の静けさをまとった日。
イタリアの名門「Ferrari(フェラーリ)」が初の完全電気自動車として発表した、4ドア・5シーターの「Luce(ルーチェ)」です。外装から内装、インターフェイスまでを一貫して描いたのは、元 Apple の最高デザイン責任者サー・ジョニー・アイブと、マーク・ニューソンが率いるクリエイティブ・コレクティブ「LoveFrom」。フェラーリが一台のロードカーの主たるデザインを社外へ託したのは、これが初めてだといいます。

「Luce」はイタリア語で「光」。その名のとおり、なめらかなガラスのキャビン(グラスハウス)を、アルミのシェルがやわらかく包み込む構成です。フロントウインドウからパノラミックなガラスルーフ、リアウインドウまでがひと続きの透明な殻となり、その外側を一枚の金属がくるむ。マーク・ニューソンは「乗員空間とボディは知的に分離している。二つは互いを邪魔せず、片方がもう片方を取り囲むように共存している」と語っています。涙滴のような単一のフォルムは、装飾ではなく空気の流れから導かれた答えのように見えます。

この一台は、LoveFrom とフェラーリ本社(マラネロ)のデザイン・エンジニアリングチームによる、5年におよぶ協業の果実です。主要なコンポーネントはすべて自社で開発され、その過程で60を超える新たな特許が生まれたといいます。電動の素性を生かしながら、あくまで「走らせて気持ちのよいフェラーリ」であることを手放さない——その執念が、随所ににじんでいます。

フェラーリ Luce サイドプロファイル/グラスハウスのシルエット(Ferrari × LoveFrom/公式サイトより)

EV を設計するうえで「空力こそがすべて」だった、とニューソンは振り返ります。ボンネットの代わりに、デイタイムランニングライトを収めた大きなエアロウイングが車の鼻先を持ち上げ、空気を滑らかなボディの上へと送り出す。ホイールアーチのベンチレーションと極端にフラットな床下とあわせて、空気抵抗の指標である Cd 値は 0.254 まで追い込まれました。これはフェラーリ史上、群を抜いて低い数値だといいます。連続したフロントウインドウを実現するため、ワイパーをガラスの両脇に縦に配したディテールにも、空力への徹底ぶりが表れています。

フェラーリ Luce フロントビュー(Ferrari × LoveFrom/公式サイトより)

タッチスクリーンに頼らない、手で確かめる操作感

Luce のもっとも雄弁な主張は、内装にあります。多くの電気自動車が巨大なタッチスクリーンへと走るなか、Luce はあえて物理的なボタン、ダイヤル、スイッチへと回帰しました。素材はガラスやアノダイズドアルミニウム。送風口(ガスパー)はアルミの円筒を手で回して調整し、指先には確かな抵抗と節度が返ってきます。画面の中の絵を探す代わりに、目をやらずとも位置と量を覚えられる——運転という行為に集中するための、きわめて理にかなった選択です。

フェラーリ Luce コックピット/物理ボタンとアナログ計器(Ferrari × LoveFrom/公式サイトより)

フェラーリ Luce 運転席まわり/アナログ計器とセンターディスプレイ、ブラウンレザーのコンソール(Ferrari × LoveFrom/公式サイトより)

フェラーリ Luce のステアリングと3眼アナログ計器、ステアリング上の物理スイッチ類(Ferrari × LoveFrom/公式サイトより)

フェラーリ Luce のマネッティーノ/赤い物理ダイヤルのディテール(Ferrari × LoveFrom/公式サイトより)

興味深いのは、デジタルとアナログをただ対立させていない点です。コックピットのメーターはデジタルでありながら、二枚の OLED パネルの間に物理的な針を挟み込む構造。中央のディスプレイは、ボタンひとつで時計からストップウォッチ、コンパスへと姿を変え、そのたびに OLED が文字盤を描き替え、内蔵のモーターが針の振る舞いそのものを切り替えます。画面の利便と、機械が動く悦び。そのどちらも諦めないという、ある種の贅沢な折衷案がここにあります。スクリーンを減らすことは機能の後退ではなく、人とプロダクトの距離を縮めるための前進だ——そう言われているようです。

フェラーリ Luce の時計表示/OLED と物理の針を組み合わせたディスプレイ(Ferrari × LoveFrom/公式サイトより)

フェラーリ Luce 後席まわりの送風口とディスプレイのディテール(Ferrari × LoveFrom/公式サイトより)

音への向き合い方にも、同じ思想が通っています。多くの EV が合成音を鳴らすのに対し、Luce はリアアクスルに仕込んだ加速度センサーで実際のパワートレインの振動を拾い、それを車内外に増幅する。エレキギターのアンプのような仕組みだとフェラーリは説明します。偽の音を足すのではなく、本物の振動を聴かせる。物理ボタンへのこだわりと、まったく同じ手触りの判断です。

フェラーリ Luce ダッシュボードと「LUCE」のエンブレム(Ferrari × LoveFrom/公式サイトより)

そしてこれは、フェラーリ初の5シーターでもあります。コンバスチョンエンジンが前方から消えたことで運転席は前車軸に近づき、ミッドシップのような感覚を保ちながら、後席にはゆとりが生まれました。ニューソンによれば、プロジェクトの出発点は「EV ありき」ではなく「4ドア・5シーター」という目標であり、それを満たす最良の手段として電動プラットフォームが選ばれたのだといいます。道具としての実用と、感性としての歓び。その両立が、この車の骨格そのものに刻まれています。

フェラーリ Luce の後席/5シーターのキャビン(Ferrari × LoveFrom/公式サイトより)

賛否両論の外観——「フェラーリらしくない」のか、「新しいフェラーリ」なのか

一方で、その外観は素直に絶賛、とはいかないようです。歴代の跳ね馬を思わせる丸型のテールランプなど、伝統への目配せはありながらも、ミッドシップの低く構えたシルエットでもなければ、典型的な高性能 EV のそれでもない。「これはフェラーリには見えない」という否定的な声は、決して少なくありません。フェラーリのデザイン部門を率いるフラビオ・マンゾーニ自身、この車を「molto disruptive(実に破壊的だ)」と表現しています。

フェラーリ Luce のリアビュー/丸型テールランプと「Ferrari LUCE」のバッジ(Ferrari × LoveFrom/公式サイトより)

けれど、見方を変えればこうも言えます。エンジンという制約から解き放たれた EV だからこそ、ボディの「建築」は根底から自由になった。マンゾーニも、エンジンの寸法と位置に支配されてきた従来のフェラーリとは architecture そのものが違う、と認めています。重いバッテリーを床下に敷き、重心を下げ、空力を最優先する——その必然から導かれた姿だと捉えれば、これは「フェラーリらしくない」のではなく、「EV という形態に最適化された、新しいフェラーリの正解」だという読み方も成り立ちます。賛否が割れること自体が、この車が安全な落としどころを選ばなかった証でもあるのでしょう。

フェラーリ Luce のリアスリークォーター/邸宅を背景に(Ferrari × LoveFrom/公式サイトより)

正直に言えば、少しばかりジョニー・アイブの「プロダクト」としての個性が出すぎている、という感覚も拭えません。アノダイズドアルミニウムや、コーニング製の強化ガラス——いずれも Apple 製品を象徴してきた素材であり、内装にはとりわけ Apple 的な美学がはっきりと現れています。ひと続きのなめらかな面、ミニマルな操作系、徹底した「coherence(一貫性)」へのこだわり。それはこの車を唯一無二にしている長所であると同時に、跳ね馬のエンブレムがなくとも作者が言い当てられてしまうほどに、デザイナーの指紋が濃い、ということでもあります。エンジニアリングはフェラーリ、佇まいは LoveFrom。その配合の妙が、好悪の分かれ目になっている気がします。

フェラーリ Luce のリアスリークォーター(Ferrari × LoveFrom/公式サイトより)

動力性能の面では、紛れもなくフェラーリです。各輪に1基ずつ、計4基のモーターは最高 1,050 馬力(約 772kW)と 990Nm を発生し、0–100km/h を 2.5秒、0–200km/h を 6.8秒で駆け抜け、最高速は 310km/h に達するとされます。床下に積まれる 122kWh・800V のバッテリーで、航続は約 530km の見込み(正式な認定値は未定)。車重は約 2,260kg と軽くはないものの、四輪操舵とトルクベクタリングが、その大きさを忘れさせる身のこなしを約束するといいます。価格は 55万ユーロからで、すでに世界で受注が始まっています。

そして、伝統のイタリアンレッドをまとった姿を見れば、賛否を呼んだフォルムも、やはり跳ね馬の血統に連なる一台なのだと素直に腑に落ちます。色という最小限の手がかりだけで、これがフェラーリであると見る者に納得させてしまう。光と影が回り込むボディの抑揚や、ミシュラン パイロットスポーツを履いた足もとから覗くイエローキャリパーには、性能への矜持がはっきりと宿っています。

フェラーリ Luce レッドのフロントビュー(Ferrari × LoveFrom/公式サイトより)

フェラーリ Luce レッドのホイールまわり/ミシュランとイエローキャリパー(Ferrari × LoveFrom/公式サイトより)

評価は、時間が決める

結局のところ、この車をいま断じるのは早いのかもしれません。マーク・ニューソン自身、「実物を見てもいない、ましてや運転もしていないのに、はじめから気に入らないと決めてかかっている人が大勢いる」と認めたうえで、「判断を下す前に、まずこの車を走らせてみてほしい」と語っています。物理ボタンの節度も、本物の振動を増幅する音も、ガラスの殻に包まれた視界の開放感も、写真の一枚では決して伝わらない種類の価値だからです。

フェラーリ Luce を真上から/ひと続きのグラスハウス(Ferrari × LoveFrom/公式サイトより)

思えば、いま「名作」と呼ばれるデザインの多くも、発表当時は戸惑いや反発とともに迎えられたものでした。空冷から水冷へ、あるいはタイプライターから初期のパーソナルコンピュータへ——道具が時代の節目をまたぐとき、人はまず違和感を覚え、やがてそれを当たり前の風景として受け入れていきます。Luce が「フェラーリの逸脱」だったのか、「電動時代のフェラーリの起点」だったのか。その答えは、私たちの評価ではなく、これから過ぎていく時間が静かに決めていくのだと思います。少なくとも、安全な前例の延長線で作られた一台でないことだけは、確かです。

フェラーリ Luce フロントスリークォーター(Ferrari × LoveFrom/公式サイトより)

「私たちの狙いは、過去を懐古することでも、レトロに見せることでもありませんでした。私たちはフェラーリの大ファンであり、このブランドの歴史を深く理解しています。その結果は、自分たちの仕事への確信と、史上もっとも偉大なであろう自動車ブランドと組んでいるという事実とが、等しく溶け合ったものです。」

— Marc Newson(LoveFrom)

「EV のアーキテクチャは、ほかのフェラーリとはまったく異なります。通常フェラーリの構造はエンジンの寸法や位置で決まりますが、これはまるで違う。空間の使い方にも、車の使い方にも、ある種の柔軟さと多様さが生まれるのです。」

— Flavio Manzoni(フェラーリ デザイン責任者)

稀代のプロダクトデザイナーがはじめて一台のクルマを丸ごと手がけ、名門が初の電動化という大きな賭けに出た——好き嫌いを超えて、語るべきことの多い一台です。最新の仕様・受注・各国での展開は、フェラーリの公式情報をご確認ください。

[製品情報]Ferrari Luce(フェラーリ公式)

[関連記事]Dezeen


  • MoMA STORE




Share

おすすめ

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

Share